STORY

草竹農園

泉州特産の水なす栽培を突きつめるうち、いろんな人と出会い刺激を受けて、気づけば革新的なぬか漬けキットを開発していた――。
大阪府阪南市で農園を営む草竹茂樹さんの歩みである。

もちろんこの一文で簡単にまとめられるほど、平易な道のりではない。
関西の一流料亭にも納品される「水なすの漬け物」を生産する背景には、当たり前のように、天気と、土と、虫と、そして農作物と向き合う365日が存在する。

農家でない人間にはそれはとてもハードな仕事に思える。しかし、当の本人は全くそう思っていないらしい。曰く「なぜこう成長するのかという理屈(ロジック)を丁寧に積み上げれば、農作物は間違いなく育つ」からだ。

草竹さんはイタズラっぽく笑いながら、でも真剣にこう続ける。

「会社のほうが大変だと思いますよ。だって上司の機嫌は理屈じゃどうにもならないでしょ? ただ、そういった苦労がない分、私たち農家はたくさん汗を流します。考えようによってはしんどいのかも知れないけど、自分からすればうまい青果を育てるためには絶対にやらなきゃならないこと。だから大変だとは思いません」

こういった発想で仕事と向き合えるのは、草竹さんが農業一筋でなく、サラリーマンなどのキャリアを経てから、水なすの農園経営に携わった経歴が関係しているのかもしれない。

「農家は農業だけをしていればいい、と僕は思ってません。もちろん、全国的に評価をいただいている泉州特産の水なすを栽培しているので、その特徴であるみずみずしさを味わってもらいたいし、そのために皮をどれだけ薄くできるかっていうのは自分の仕事。そのクオリティにはトコトンこだわっています。でも、自分はそれとは別に、もう一歩先の、作ったら終わりじゃなくて、お客さんがどういう状態で食べているか、どういう状態で食べて欲しいか、という所まで追いかけたかった」

現状に満足しない、困難をおもしろがる泉州男の気質だろうか。

「想いであったり、感情がなかったらいいものはできない。これは自分の信念であり確信。仕事というのはきっとどの業種でも一緒だと思うんです。みんなある程度のところまでは行くけれど、そこで頭打ちになって……。でもその状況を打ち破りたいと強く願って行動した人間は、不思議と同じような想いの人と出会うんですよ。ほいで真剣な者同士がバーンとぶつかって、時には言い争ったりしながら、色んなことを疑問視してみたときにパーンと新しいものが生まれるんです。その瞬間ですよね、それが本当におもろい」

草竹さんの想いは、「TSUKERU TABERU(ツケルタベル)」という水なす専用のぬか浅漬けキットに姿を変える。日本の伝統的な漬物であるぬか漬けは、ビタミンBを含むぬかとビタミンCを含む野菜が互いに栄養素を補い合った究極のコラボレーション食品であり、食事をとおして体の中から健康作りができる発酵食品だ。

しかし、この商品にはひとつ問題があった。材料に新鮮な水なすを必要とするため、産地である阪南市から離れると楽しむことができないのだ。ホンモノの美味しい青果を、一般の市民に広く食べてもらうにはどうしたらいいか。青果にこだわらず、ぬかを進化させることで、草竹農園の主はさらに前へと突き進む。

「テストして失敗を積み重ねないと、何がいけないのかわからないから。失敗したときは本当に嫌になるし、1週間ぐらい考えたくもなくなるけど、落ち着いてくるとやっぱり考えちゃうんですよね。何があかんかったのかなって。そして自分の知識と経験の引き出しを開けて答えを探したり、あとはやっぱり人に会って、話して、違う発想をもらったりして……」

迎えた2016年5月。東京都内に拠点をもつキビィズ社と共同で開発した新商品が生まれる。簡単ぬか漬けキット「NUKA MARCHE(ヌカマルシェ)」である。

この商品の革新的なポイントは、純国産のぬかを草竹さんの発見した独自の防虫技術(特許申請中)により薬品を使うことなく自然処理した点にある。まさに匠の技術の粋を集めた加工品といえよう。真空パックの封を空け、水を入れて、外から揉むだけで栄養価の高いぬか床が完成するので、消費者はそこにお好みの青果を切って入れるだけ。誰でもどこでも最高においしいぬか漬けを手軽に楽しむことができるようになったのだ。

「日本国内にとどまらず、海外の農家とも繋がって、現地の食材をヌカマルシェで漬けて食べてもらいたいですね。やっぱり農家にとって自分が作った商品で「おいしかった」と言われるのは格別の喜びだから。安全で安心かつおいしくて栄養もたっぷりな食べ物を、その土地のみなさんに還元できたらええなって思います」

ヌカマルシェの誕生により、草竹さんの夢は世界に向けて膨らんでいる。

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