STORY

海苔

良質なたんぱく質。豊富なビタミンやミネラル。食物繊維や鉄分も摂取できる栄養の宝庫。「海苔」は主食であるご飯のパートナーとして抜群の相性を誇る和食に欠かせない食材である。そんな海苔が大阪湾で養殖されている事実は意外と知られていない。そして、養殖業を営む業者が、大阪府にはわずか3軒しかないことも――。

1970年代の最盛期、大阪府には70もの海苔の養殖業者が存在した。しかし、海苔の製造技術が年々高まり生産量が増すと、需要と供給のバランスがもろくも崩れてしまう。価格は下落の一途をたどり、多くの業者が経営を圧迫され廃業を余儀なくされたそうだ。また、大阪湾の埋め立てが進むことにより、漁業自体を続けることが困難になった漁師も多く、その結果、海苔を手掛ける水産会社は、今や大阪南部の阪南市に3軒を残すのみとなった。

元来、山の養分を取り込んだ淀川や大和川の水が流れ込む大阪湾は、豊かな漁場だった。そして、そこで育まれる海苔は、繊維が長く、滋養に溢れた一流の食材であった。大阪府が選ぶ特産品にしか与えられない“大阪産(おおさかもん)”というブランド認証も受けている阪南の海苔について、最後の砦となり養殖業を守り続ける3人の男たちに話を聞いた。

まず訪れたのは、名倉水産の名倉勲さん。とてもフレンドリーに海苔養殖の現状を教えてくれた。

「海苔を商品にするまでの過程は、機械がほとんどやってくれるようになりました。機械が新しければ新しいほど海苔に値打ちがつくという時代やからね。海苔本来の味というより、仕上がりが綺麗とか、海苔のフチがまっすぐ切れているかとか、そういった外見的な部分が大事になってきていると感じてます。でも自分は海苔本来の味をちゃんと残した商品にしたいし、しっかり味のする海苔を作りたい。そういうこだわりは漁師といえども農家の方と一緒だと思います」

次に訪れたのは佐藤水産の佐藤保さん。尾崎漁協の組合長も務め、広い視野で海苔の養殖や漁業の未来を見すえている。

「海苔づくりの難しさはやっぱり自然に逆らえないことだと思う。どれだけ良い機械ができようが、原料の海苔が海でちゃんと育たないことには役に立たないから。作り方は今も昔も変わらないけど、毎年のように変わる自然が相手だし、結局のところ人間は自然に勝たれへんからね。でも、勝てないとばかり言っていても意味はないわけで、美味いもんを作るために、自然についてみんなでもっと真剣に考えなあかんと思う。子どもたちの未来に豊かな水産資源を残したいし、山・海・川という自然をこのまま破壊していっていいのかどうか。自分は自然を大切にしない限り、美味いもんは絶対にできんと思っているし、そういう想いを持ちながら漁師をしています」

最後に岸本水産の岸本義光さんに話を伺った。海苔づくりを人生の楽しみと語る、日に焼けたその表情は実に眩しい。

「自然は難しいもんで、毎年、気温も水温も天候も全然違いますね。美味い海苔を作る秘訣は、そういう条件を知るいうことより肌で感じることができるか。この感覚がとても大事やと私は思っています。ずっと海苔を見ているからこそ分かる感覚とでも言うんでしょうか。みなさんも自分の健康状態は自分が一番わかりますよね。海の中の海苔のこともそんな気持ちで毎日毎日真剣に見てたらわかるようになるもんです。そのやり取りいうか、手をかけたら手をかけた分だけ良い海苔ができる、というところが魅力でしょうか」

3人とも海の恵みに心から感謝し、阪南の海苔の美味しさに誇りをもち、惚れているからこそ、養殖の営みを続けているのだろう。

生産量が少なく、希少価値の高い「阪南の海苔」。肉厚で、しっかりとした味わいが特徴の海からの贈り物は、泉州の骨太な男たちによって作り出され、新しく食べてくれる人々、そして新たなパートナーとなる食材を今日も待っている。

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